モバイルSNS(モバゲー・グリー)急成長の驚異とその先に待つ未来(1)

■はじめに

日本のモバイルSNSの収益及びビジネスモデルがどのような発展を遂げているかについて、下記の原資料をもとに考察してみたい。
基本的にはループス・コミュニケーション社(http://www.looops.net/)によるファクトファインディングを多岐にわたり参考にしている。同社の斉藤社長の記事は、知識の吸収と頭の整理に大変活用させていただいており、深く感謝。
http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2010/05/20105mixigree-7.html


■サービスの基本的性格の変化(「交流サイト」から「ゲームセンター」へ)

SNSは本来、友達・知り合いの間の会員間交流(コミュニケーション・インタラクション)を主たる利用目的として想定した、長時間滞在型のサービスである。現在でも、ミクシィmixi)の基本的性格はそこから変わっていない。
一方現状の大手SNSの2強であるモバゲー(DeNA)、グリー(GREE)のサービスは、本来のSNSと同様に長時間滞在型のサービスであるが、会員間交流そのものよりも、ゲームやアバター等、エンタメ系のデジタルコンテンツを利用することが主目的になっている。
会員間交流の仕組みは変わらず残っているものの、
・デジタルコンテンツのバイラル・プロモーション
・デジタルコンテンツを遊ぶ構成要素としての会員間のインタラクション(利用者間でお宝を盗み合う「怪盗ロワイヤル」はその典型例)
主に上記のように、マーケティングないしサービス構築のための構成要素(会員を煽り、のめりこませるための仕掛け)として位置づけられている点が、本来の意味でのSNSから大きな変化を遂げた部分といえよう。
こうした利用シーン−すなわち、会員間が時に会話したり、協力したり、競争したりしながらゲームにのめりこみ、暇つぶしをしている姿−は、バーチャルな「ゲームセンター」と呼ぶにふさわしい。



■課金主体で1000億円市場へ飛躍

こうした「ゲームセンター型」のサービスに移行したことにより、モバゲー・グリーの基本的な収益モデルも大きく変化した。
会員間交流を主サービスとするミクシィは、依然として、
・コミュニケーションから生み出されるPVをベースとした広告
Adsenseアフィリエイト広告等、書き込み内容に関連したマッチング型の広告
の2つを主たる収益源としているのに対し、モバゲー・グリーは、基本無料のサービスでありながら、仮想通貨(モバゲーであればモバゴールド・モバコイン)を介したゲームやアバターへの追加の少額課金で収益を稼ぎ出す形に変貌を遂げている。
http://blogs.itmedia.co.jp/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2010/05/20/mgm17.png

こうしたマイクロペイメントの積み重ね+広告で、モバイルSNSの市場規模は倍倍ゲームで成長しており、2010年には1000億円程度に達すると見られる。1プラットフォーム(SNS)あたり2000万(日本の総人口の約20%)にのぼるマスユーザーを対象として、平均月額200円以上のARPUがたたき出せており、その原価構造(多くの支出対象の原価は非常に安い)を考えると、世界的に見ても稀有の成功モデルと言えるだろう。


■ゲームセンターと近似したマーケティングモデル

実はモバゲー・グリーのマーケティングモデルは、リアルなゲームセンターのそれと極めて近く、比較すると理解しやすい。

・入場無料
ゲームセンターは遊園地と違い、入場料は無料であり、最初の一歩の敷居が低い。この点は会員制ビジネスでありながら「会費無料」のモバイルSNSに近い考え方である。モバイルSNSの場合、入場から退店までずっと無料でも楽しめる点はゲームセンター以上にこの点が徹底している。

・商業施設内への出店
近年のゲームセンターは単独での出店よりもショッピングモールや複合型アミューズメント施設への出店が主流に変わってきているが、それによりゲームセンター利用を主目的とした来店ばかりでなく、ショッピングや食事のついでにふらっと立ち寄る来店シーンを広く取り込んでいる。
これは、モバゲーやグリーにおいて、本来利用用途であった交流サイトに隣接した形でゲームが発展してきたことと相似している。

・入口にある交流用カジュアルゲーム
ゲームセンターの入口付近には、UFOキャッチャーやプリクラ等、気軽に楽しめるゲーム機が配置されている。利用人数で言えば、こうしたカジュアルなゲームを友達・家族と一緒にいくつか楽しんで、それだけで店を出る客が多い。
自分を装飾した写真を撮り、ぬいぐるみ・駄菓子の釣り上げに挑戦し、それを友達・家族同士の会話のネタとしながら暇つぶししている姿は、モバゲーのアバター・アイテム、グリーの釣りゲームを楽しむ姿と全く同じである。

・奥にあるコアユーザー向けゲーム
ゲームセンターの奥にはビデオゲームシューティングゲームレーシングゲーム等)やメダルゲーム(カジノゲームや競馬ゲーム等)が設置してあり、それらの席にはコアユーザーらしき人が1人で来店し、長時間席に陣取り、メダルを大量消費している。パチンコと基本的には同様の価値観に立脚した「煽り」のサービスである。
モバゲーやグリーも、会員同士が競い合う「バトル系」のゲームに煽られ、月に数万円を払ってしまう会員も少なくないと聞く。

・マイクロペイメント型の収益モデル

ゲームセンターのゲームは全て1回100円単位で利用できるものでありながら、上記のようなマーケティング手法の工夫で、マスユーザーの広く薄くの利用機会とコアユーザーからの反復利用機会の双方を積み重ね、約6000億円(ゲームセンター市場規模)を稼ぎ出している。
モバイルSNSの場合はこうしたビジネスモデルが更に徹底されており、1回数円/数十円で利用できるゲームでありながら、ケータイの特性をフル活用しユーザーとの接触機会を数多く作り出し、コアユーザーを煽ることで、ゲームセンターに肩を並べる数千億円規模の市場を形成する勢いである。


このように、ゲーム系のモバイルSNSビジネスの基本構造をゲームセンターになぞらえて説明してきたが、次の投稿ではゲームセンターとの違いについて着目して分析を続けて行きたい。